ここ最近はクロマト漬けの毎日を送っているので1つ記事を書いてみたいと思います。
液体クロマトグラフィで使用される移動相である「溶離液」について調べたことがきっかけで、クロマトグラフィの成分分離に利用される移動相と固定相の相互作用の差と言うのは、実際どんな作用なのか自分は分かっているのかな?と思い、改めてまとめてみることにしました。
◎相互作用とは―極性と電気陰性度
日本分光のHPの記述にちょっとヒントが見つかりました。
液体クロマトグラフィの分析方法の一種である順相クロマトグラフィの説明欄に“極性の高いカラムに極性の低い溶媒を流し、極性の低い成分から極性の高い成分を溶出させる方法が順相クロマトグラフィー”との説明があります。
極性と言う言葉が引っかかりますね。「極性」とは、高校化学の化学結合あたりで出てくる話でした。「極性」について考えるには電気陰性度について知っておく必要があります。
電気陰性度;分子内の原子が電子を引き寄せる力の強さを表したもの
電気陰性度の図[詳細はwikiで見てみてください]
上表にも、その強さを示す数字が入っていますが、電気陰性度の強い原子として代表的なのが、「N,O,F,Cl」でした。
これらの原子はより自分の方に原子を引き寄せます。
なので、このような原子と極性の弱い原子が結びつくと、下図のように電荷の偏りが発生します。
<例:フッ化水素>
このように電気陰性度によって原子間に偏りが生じている状態を
「分子の極性」と表現するのでした。
これで簡単に「極性」についておさらいができました。
次に、クロマトに関する別の資料を参照すると、
”高極性物質は高極性溶媒に溶解しやすい・低極性溶媒には溶解しにくい”
との記述がありました。これはどういう状態なのでしょうか。
◎極性物質は極性溶媒に溶解するとは
試しに、塩化ナトリウムを水に入れた時に内部で起こっている状況をイメージしてみます。
ちなみに塩化ナトリウムは極性分子とは呼ばれません。
プラスとマイナスで結びついて溶け合っている状態のイメージとして一番わかりやすいと思ったので例として挙げましたが、塩化ナトリウムは、水に入れると陽イオン(+)、陰イオン(-)となるイオン結晶です。
イオン結晶も極性分子と同じように水分子と溶けあうことができる物質です。
<例:塩化ナトリウム水溶液>
このように塩化ナトリウムを溶かした水溶液内部では、塩化ナトリウムはNa+とCl-のイオンに分かれており、フッ化水素同様に極性を持つ分子であるH2Oでは、負に荷電している酸素はNa+側に、正に荷電している水素はCl-側に寄っていきます。
要は、「マイナスとプラスが引き合っている」と言うことです。
極性分子に話を戻しますが、似たようなことが起こっています。
イオン結晶と違って極性分子は、電気陰性度の差によってプラスに荷電している原子とマイナスに荷電している原子が存在しています。
イメージとしてはこんな感じです。
<例:エタノールの水和>
エタノールについている-OHにおいて、Oの電気陰性度が高く、Hの電気陰性度が低いので、エタノールは極性分子となっています。極性が強いので、同じく極性の強い水とそれぞれがもつ+と-に荷電した原子が引き合うことで溶け合っている、と言うことです。
参考サイト
また、無極性分子を極性分子と混ぜようとしても、引き合うものがないため溶解しません。
◎カラム内で生じている相互作用とは―結論
「極性」「極性の強いものが極性の強いものに溶ける」と言う状態がイメージできてきたでしょうか…。ここで最初に例として出した日本分光さんのHPの説明文の一節をもう一度確認してみます。
“極性の高いカラムに極性の低い溶媒を流し、極性の低い成分から極性の●い成分を溶出させる方法が順相クロマトグラフィー”
敢えて●で隠してみました。
カラム側:極性が高い
溶媒 :極性が低い
と言うことは、上記内容を踏まえると
ある分子内の極性の比較的強い成分が+と-に分かれてカラムに吸着している様子がイメージできます。
カラム側に吸着しやすいのは:極性の高い成分
なので、
「極性の低い成分から極性の高い成分を溶出させる方法が順相クロマトグラフィー」と言うことになりますね。
逆相カラムは名前の通り、その逆です。
このようにクロマトグラフィ分離で起こっている作用の概略についてまとめてみました。この概念を実際のクロマトグラフィ関連文書の文脈と照らし合わせると、自分としては理解しやすくなりましたがどうでしたでしょうか…。(図が汚い、字が汚いというのは大目に見てください…。)
【参考資料】
マクマリー有機化学(上)[電気陰性度p.35]他
◎類似用語
ちなみに「溶離」と一緒に「溶出」と言う用語も頻出ワードですが、対応する英語がそれぞれ似ていて混乱するので、図解してまとめてみました。
※あくまでイメージ図です。
・カラムに導入されるのが「溶離液」:eluent, eluant
・カラムから出てくるのが「溶出液」:elute, effluent
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【参考資料:溶離と溶出について】
〇溶離液
”移動相とは試料をカラムに流し込む媒体のことを指し、
LCでは移動相を溶離液とよんでいます。”[日立ハイテクHP]
eluent, eluant
・The liquid or gas entering a chromatographic bed and used to effect a separation by elution.<IUPAC>
・カラムに保持されている試料成分を展開及び溶出させるための液体。<日本工業規格JIS K0214>
〇溶出液
カラム出口から出てくる溶離液の一部で、分析対象成分を含む溶液。
[Waters参照]
effluent
・The mobile phase that exits the column
・The mobile phase leaving the column.<IUPAC>
・移動相(溶離液)によって展開したときのカラムから流出する液体。<日本工業規格JIS K0214>
eluate
・The effluent from a chromatographic bed emerging when elution is carried out.<IUPAC>
・The solute – mobile phase mixture which exits the column.
・移動相(溶離液)によって展開したときのカラムから流出する液体。<日本工業規格JIS K0214>
英語では2つの単語が存在しますが、IUPACの定義を読む限り特に違いなく使用されているようです。JISにも2つ併記されていました。
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以上です。
はじめまして。講座受講生のasaと申します。
いつもtanakaさんのブログから気づきとエネルギーをいっぱいいただいてます。
今回の記事も、とても分かりやすかったです。
ちょうど化学の勉強を始めたところでして、覚えたてで言葉としてしかわかっていなかった極性という概念が、実際の装置にどうやって応用されているのかがよくわかりました。
ありがとうございます!
asaさん
コメント頂きありがとうございます!
私もasaさんのブログを時折拝見しており、1つ1つの課題に熱心に取り組まれて考えられている姿に刺激を頂いておりました。
化学は色んな聞き慣れない言葉が出てくるので混乱しますよね…。
このような記事がどのくらいのペースで書けるかはわかりませんが、asaさんからの言葉を励みに頑張りますね^^
お互い頑張りましょう~!