取るぞ取るぞとずっと言われていた本庶先生が
ついにノーベル賞を受賞されましたね。嬉しいニュースでした。
ノーベル賞の話題にこんなに関心を持ったのは今年が初めてで、
受賞した技術が自分が以前勉強したものであったことに気付き、
よりいっそう感動が大きい今日この頃です。
さて、先日頂いたトライアル課題もなんとか提出し終わり、勉強を再開しました。
今月は、
・バイオマーカー
・中外製薬の抗体医薬
・皮膚炎用の抗体医薬
に関する日本語特許を複数件読むのを1つの目標としています。
今日はまずは、ノーベル賞で話題の小野薬品工業から
1件特許を読んでみました。
特開2018-134038 小野薬品工業株式会社
『PD−1経路阻害薬による癌治療に有効性を示す患者選択のためのバイオマーカー』
【どんな特許か】
・PD-1経路阻害薬による癌治療に有効性を示す患者を
選択するためのバイオマーカーの提供
言い換えると、
・がんに効くある薬の効果が、
確実に表れる患者を事前に選択するための体内の目印物質の提供
と言うことですね。
【何故必要なのか】
PD-1経路阻害薬と言うのは、
今ノーベル賞で話題のオプジーボに代表されるがん治療薬です。
報道を見ていると、
オプジーボはがんが治る魔法の薬のような印象を持ってしまいそうですが、
薬にはどうしても、効果のある患者さんと、あまり効かない患者さんと言うのが
出てきてしまいます。
オプジーボも同じです。
今回読んだ明細書で取り上げられているバイオマーカーは、
治療効果が出る可能性のある人を選別するのに有効なのです。
オプジーボは、超!高額なお薬でもありますし、
患者さんの身体的な負担を考えても、
投与前に、効果の見込める患者さんを選別できた方が良いよね、ってことです。
【どうやって】
その事前の選別に使われるのが「バイオマーカー」です。
バイオマーカーとは、身体の状態を知るための体内にある指標物質のことですが、
今回のように治療効果の予測マーカーとしての機能を持つものだけでなく、
これだけの種類があるようです。
・診断マーカー:疾患の診断に用いる
・予後マーカー:特定の治療によらない疾病の経過を予測する
・薬力学マーカー:薬剤の作用機序を見る
・予測マーカー:特定の治療による効果を予測する
・代替マーカー:臨床試験の真のエンドポイントを代替する
・モニタリングマーカー:疾患の判断や、治療への反応を見る
・患者層別マーカー:薬剤に関連した特定の分子を発現している患者を選別する
・安全性・毒性マーカー:薬物の安全性、毒性を評価
<参考>
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mhc/23/3/23_185/_pdf/-char/ja
今回の明細書で、バイオマーカーとして提示されているのは、
HLA遺伝子なのですが、
ある種類のHLA遺伝子を持つ患者さんにおいては、
PD-1経路阻害薬が有効である可能性が高いと言えることを
この明細書中の実験結果を元に証明しています。
このHLA遺伝子の有無の調べ方については、
詳細な説明はここでは省きますが、
幾つかの遺伝子検査によって判定することができます。
【キーワード:HLA遺伝子】
ちなみに、このHLA遺伝子と言うのは、遺伝子の変異とは異なります。
遺伝子の変異と言うのは、正常な状態の遺伝子が、破壊や複製ミスによって
病気の原因になるような変化が起こってしまっている状態です。
(体内では常にこのような遺伝子変異が起こっていて、
この変異によって新たなペプチドなんかが体内に作られてしまった場合には、
免疫細胞がこれを異物と認識して退治に来ます。)
バイオマーカーとしても使われるHLA遺伝子と言うのは、
遺伝子変異と言うよりは、個人が元々持っている遺伝子タイプです。
血液型のより細かいバージョンと言ったらイメージが湧きやすいでしょうか。
血の繋がった家族であれば、似たHLA遺伝子型の種類を持つことになりますが、
一卵性双生児以外100%同じと言うことはなく、
人それぞれ異なるHLA遺伝子タイプを持っています。
移植を必要とする患者の方がドナーを探す、と言うことがありますが、
ドナーになれる方と言うのは、HLA遺伝子タイプが患者と似ている人のことです。
このように個人によって異なるHLA遺伝子ですが、
ある特定の疾患を持つ患者は、特定のHLA型を持っていたり、
ある特定の薬に効果が表れる患者群は、共通のHLA型を持っている、
と言うことがあります。
今回の明細書で、薬の効果があるHLA遺伝子タイプとして挙げられているのが、
・HLA-B*07:02
・HLA-DRB1*01:01
でした。
【実験結果】
一部のみご紹介すると、
ニボルマブ(オプジーボ)を投与した患者の内、
投与前後の腫瘍の状況を確認できた33例の結果を確認したところ、
その内、1本以上のHLA-B*07:02を持つ5例全てにおいて
腫瘍が縮小したとの結果が得られたとのこと。
統計的には、p=0.0019なので、
腫瘍の縮小に有意差があったと考えられるようです。
以上、今回読んだ小野薬品工業の
PD-1経路阻害薬による癌治療に有効性を示す患者を選択するための
バイオマーカーに関する特許についての簡単な紹介でした。
誰にでも同じように薬が効くわけではない、
ということに気付くきっかけにもなったのではないかと思います。
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最近医薬品分野の仕事が増えているので、こちらの本を読み始めました。
オプジーボを始めとして日本初の新薬開発の舞台裏が描かれています。
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