音叉振動式粘度計とは

最近まで物理の勉強で、波と振動の単元に取り組んでいました。
たまたま見かけた特許の中に面白そうな技術があったので共有したいと思います。

JP2005-009862 粘度計及び粘度計の駆動周波数決定方法
株式会社エー・アンド・デイ
さんの明細書です。

実際はマイコン採用による固有振動値メモリ化などがメインの特許なのですが,,
そこではなく、粘度計に絞ってまとめてみました。

●音叉とは
まず、音叉振動式粘度計の「音叉」とは何なのでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、音叉自体は常に同じ音を出すことのできる金属製の棒です。言い方を変えると、ある特定の振動数で振動するように作られた金属の棒です。
同じ種類の2つの音叉を並べると、片方の音叉しか叩かなくても、もう一方の音叉が鳴り出す、と言う不思議な現象が起きるんでしたね。

この現象には振動が影響しています。そもそも音とは、空気中を伝わる振動のことです。何故音が我々の耳に入ってくるかと言うと、空気が振動しているからです。なのでこの空気の振動が、ある音叉の固有振動数に近い振動数で伝わると、同じように振動し始めて音が出る、と言うことです。

数年前、地震もなかったのにあるビルが揺れるという事件が起こりました。
エアロビが縦揺れ誘発か、ソウルの超高層ビル
この原因は、ある階のスポーツジムでエアロビの音楽のテンポがビルの固有振動数と一致したことによってより強い振動が生まれたことだと言われています笑
そのスポーツジムでは音楽に合わせて数十人が一斉に飛び跳ねていたんですね。

固有振動数とは、物体がそれぞれ有する最も振動しやすい振動数のことです。外部から加わった振動が物体の固有振動数と近いと物体はより大きく振動します。

この大きな振動が起こることを「共鳴または共振」と言います。

●発明の概要
●測定原理

[JP2005-009862より] 上図のように、液体Xの中に2本の感応板18が入っています。真ん中の板は温度センサーのようなので今回は無視しますね。
測定するには液中の2本の感応板18が振動します。

例えば、液体が水であった場合と、あんかけのあんであった場合とでは、その振動において何が変化するでしょうか。振動するために要する力が変わりますね。あんかけのあんは、ちょっと振動しにくくなるので、一定の振動を保つためには、より大きな力が必要となりそうですよね。
より大きな力を出すには、さらに電気を使って振動させることになります。

と言うわけで、すでに分かっている粘度の液体で使用した電気量と、測定したい液体で必要とした電気の差によって粘度が分かる、と言うのがこの粘度計です。

●で、音叉は何がいいの?
まぁ上の原理だけであれば特に音叉の原理を使用しなくてもできそうな気がしますよね?とりあえず棒を振動させれば、粘度が測れそうな気がします。
では「音叉振動式」だと何が良いのか?それは感度がいいんです。

改めて、下にあるXが粘度を測定したい液体で、18が音叉型感応板、23が電磁駆動部です。

明細書にはこのように書いてあります。
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感応板には固有振動数があり、この固有振動数に相当する周波数(以下、共振周波数という)の電流をフォースコイルに供給すれば、感応板は共振現象を起こし、最小電流で安定した振動が得られる。これにより、粘度計の測定感度が高くなるものである。
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感応板18には固有の共振周波数がある、とのことなので、ある特定の周波数で共振する、と言うことですね。

何と共振するのか、と言うと、電磁駆動部23から供給される駆動振動です。
注目すべき箇所はここ。

簡単に言うと、電磁駆動部23で揺らした振動(電気振動)が感応板18に同じ振動(運動による振動)として伝わる、と言う感じですかね。ここが、先の音叉やビルの例と似ているところです。
18には固有振動数がありますから、駆動部23側で周波数を制御して18に合致するようにします。

この状態を図で表すとこんな感じかと。

青い線:感応板の共振周波数。
赤い線:電磁駆動部から供給される周波数。
緑の蛍光線:その2つの共振によりさらに大きくなった振幅を持つ波

●結論
この共振現象を利用すると何が良いのか?
それは、たとえ供給される周波数が低かったとしても、共振現象によって振幅を大きくすることが出来ることです。感応板の振動も大きくなり、幅広いレンジでの粘度の測定が可能なり、粘度計の測定感度も向上させることができる、と言う点で音叉振動型粘度計は優れているのだと思います。

感応板は2本入っていますが、
これは互いに逆方向に振動するため、試料が流動している状態でも誤差を打ち消しあい、攪拌中の試料も測定できるようにしているとのこと。

なんとなくわかりましたでしょうか……?

●おまけ
最後に説明した振幅が増大した波の現象について、高校物理のおさらいをしてみたいと思います。
単元としては「波の干渉」英語で言うと「interference of waves」
せっかくなので英語の高校生向けテキストを参考にしたいと思います。
ネット上に転がっていたフリー資料を参照しています。

If two waves meet interesting things can happen.と前置きがあって
If two identical (same wavelength, amplitude and frequency) waves are both trying to form a peak then they are able to achieve the sum of their efforts. The resulting motion will be a peak which has a height which is the sum of the heights of the two waves.
2つの同一の波 (two identical waves)が山(peak)を作る際にはその力が合計される。その山の高さは2つの波の合計である、
と言うことを言っていますね。図にするとこちら。

If two waves are both trying to form a trough in the same place then a deeper trough is formed, the depth of which is
the sum of the depths of the two waves.
2つの波の両方が谷(trough)を作る際には、その谷の深さは2つの波の合計となり、より深い谷が形成される、
と言うことを言っています。簡単な図にするとこちら。

で、この現象のことを
「This is called constructive interference.」

と言っています。
日本語では「干渉による強めあい」「建設的干渉」と言うようです。「建設的干渉」の使用例が多い模様です。

次に、波の動きが異なる場合にどうなるのか、と言う点も見ていきましょう。

英語側の説明では
In this case they can cancel out.

cancel outしてしまうんだそうです。
cancel outと言うと、言葉的にすべて消えてしまうようなイメージを持ってしまいますが、ここでは「打ち消し合う」の意味ですね。

具体的に見ていきましょう。
1.山と谷が同じ高さの場合
If the depth of the trough is the same as the height of the peak nothing will happen.

2.山の高さがより高い場合
If the height of the peak is bigger than the depth of the trough a smaller peak will appear

3.谷の深さがより深い場合
if the trough is deeper then a less deep trough will appear.

で、これらの現象を総称すると、
「This is destructive interference.」と言うんだそうです。

日本語では「弱め合う干渉」「相殺的干渉」と言うようです。

とりあえず波の性質をさらっとおさらいできたので、この辺で。

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音叉振動型粘度計についてより深く知りたい方はこちら。
・音叉振動型粘度計
https://www.aandd.co.jp/adhome/products/balance/dev_stories/dev_stories_no5.html
http://www.nks-wa-hakaru.jp/2015/1008_000000.php
・固有振動数
http://d-engineer.com/Mechanics/frequency.html

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