機械についてやるはずがどっぷり電気の世界にはまっております。
今日はこの文章について考えたいと思います。
Strain output of strain measuring circuit 80 is
naturally temperature compensated
since resistance changes due to temperature are
equal for all strain gage elements.[US6739199]
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【公開訳】温度に起因する抵抗変化が
全てのひずみゲージ素子の場合に等しいので、
ひずみ測定回路80のひずみ出力は必然的に温度補償される。
【私訳】温度に起因する抵抗変化が
全てのひずみゲージ素子に対して等しいため、
ひずみ測定回路80のひずみ出力は必然的に温度が相殺された
ものとなる。
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compensateの訳し方に違いがありますよね。
結論としては公開訳の方が良いと思いましたが、
ちょっとシェアしてみたいと思います。
まず、
strain measuring circuit80がどういう状態かと言うと、
<図>[US6739199より]
このように4つ抵抗が並んだホイーストンブリッジ回路構成に
なっています。
【ホイーストンブリッジ回路】
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ホイーストンブリッジ回路には4つの抵抗(ギザギザのやつ)
が配置されています。
ホイーストンブリッジ回路は、ひずみゲージと一緒に用いられる
回路で、ひずみが発生しなければ電流が流れない平衡状態に
ありますが、ゲージを貼り付けた物体にひずみが発生すると、
ひずみゲージの抵抗値が変化し、ゲージから電圧が発生します。
この電圧がホイーストンブリッジに印加されることで
回路内に電流が流れるようになり、回路からの出力電圧が
変化します。
これを測定素子で検知することでひずみの変位や方向が
わかるようになる、と言うのがホイーストンブリッジ回路を
利用した測定の仕組みです。
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課題文に戻ります。
Strain output of strain measuring circuit 80 is
naturally temperature compensated
since resistance changes due to temperature are
equal for all strain gage elements.
since以下は、
「温度に起因する抵抗変化が全てのひずみゲージ素子に対して
等しいため、」と言うことですね。
どういう状態のことか確認してみます。
ホイーストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗はそれぞれ
近くに配置されているため、外温が等しく伝わります。
なので抵抗素子が温度に起因して膨張する、と言う事象が
発生しても4つの抵抗全てに同様の現象が起こるはずです。
そのため、4つの抵抗が等しく膨張すれば前提条件が
一緒になるので、抵抗値の変化は考えなくて済みます。
ゲージにおける温度・温度に起因する抵抗変化は相殺された、
と言うことです。
since以下の文章は、このことを指しているのだと思います。
とすると、私の訳について検証してみます。
【私訳】
温度に起因する抵抗変化が全てのひずみゲージ素子に対して
等しいため、ひずみ測定回路80のひずみ出力は必然的に
温度が相殺されたものとなる。
何となく良い気もしたのですが、「相殺される」と言う事象は
すでにsince以下で説明済なので、この文章はおかしなことに
なっていると思います。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、
「温度に起因する抵抗変化が全てのひずみゲージ素子に対して
等しい」
と言うのは、「温度による影響が相殺されているため、
温度による抵抗変化が全てのひずみゲージ素子に対して等しい」
と言うことですよね。
「温度による影響が相殺されているため、
抵抗変化が全てのひずみゲージ素子に対して等しいので、
必然的に温度が相殺されたものとなる」はヘンテコな文章なので、
「相殺された」は良くないな、と思いました。
「ひずみ測定回路80のひずみ出力は必然的に温度補償される。」
の方がしっくりくる気がします。
試しに、温度補償はどういった文脈で使われるのか確認してみました。
【温度補償】
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①温度補償
風温が変化した場合、同じ風速でも熱放散量が異なるため、
計測値が変化してしまいます。
当社の風速計は、風温が変化しても正しい風速が計測できるよう
温度補償回路を設けています。
これはブリッジのもう一辺に風速と同じ温度係数を持つ
測温素子(Rc)を配置して、風温との温度差(T-Ta)を
一定に保つようブリッジを調整し、風温変化による誤差を
少なくしています。
http://www.kanomax.co.jp/technical/detail_0021.html
→測温素子を2つ配置して、温度差を一定に保っている、
と言うことのようです。
偶数の素子をバランスして測定誤差を少なくして
温度差を一定に保つ=「補償」のようです。
②温度補償機構・・・作動油の温度変化による設定流量の
変動をおさえる。
https://www.juntsu.co.jp/qa/qa0511.php
→温度を一定に保つ、と言うニュアンスで温度補償と使用しています。
③自己温度補償型ゲージ
被測定材に接着したひずみゲージは、外力によるひずみ以外に
温度変化があると、被測定材とひずみゲージ抵抗素子の
線膨張係数の違いおよびひずみゲージ抵抗素子の温度による
抵抗値変化の影響でみかけひずみを生じます。
セルコンゲージRは、被測定材に適合するように
ひずみゲージ抵抗素子材の抵抗温度係数を調整し温度による
みかけひずみを最小にしたひずみゲージです。
http://www.kyowa-ei.com/jpn/technical/strain_gages/selcom_gages.html
→温度によって抵抗素子が多少膨張すると、
抵抗値も変化してしまいます。その温度変化の影響を
(何らかの方法で)低減する。すなわち温度変化の影響を
一定に保つ、と言う意味で温度補償型と使っていますね。
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補償の使われ方が分かってきました。
では、公開訳を見てみます。
【公開訳】
温度に起因する抵抗変化が全てのひずみゲージ素子の場合に等しいので、
ひずみ測定回路80のひずみ出力は必然的に温度補償される。
どちらかと言うと、
「必然的に温度補償されたものとなる。」の方が良いでしょうか。
いずれにせよ、温度補償されたゲージを用いた場合と同じ効果が
得られる、と言う意味が伝わり、文章としても繋がっていると思います。
結論=公開訳の方が良い
最後に「補償」と言う言葉にもう少し慣れるため、
特許や企業HPにおける使われ方を幾つか調べたので挙げておきます。
技術文書における「補償」
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◎誤差を補正する
駆動トランジスターの特性の誤差を有効に補償する。
駆動トランジスタTr1のバラツキを補償する。
電力増幅器で発生する歪を補償する。
歪補償装置
◎ある一定方向の偏光だけを取り出す
耐久性が優れた光学補償シートを用いて液晶セルを光学的に補償する。
光学補償シートは、液晶表示装置において、液晶セルによる複屈折を
補償するものであるから、光学異方素子の波長分散は、
液晶セルと等しいことが好ましい。
◎電圧ができるだけ一定になることを補償する、担保する
本製品から遠い場所に負荷が接続されている場合に、
負荷線による電圧降下を補償します。[菊水]
電力補償装置:交流き電方式において、負荷側を平衡化することにより、
電源側の三相不平衡および電圧変動を改善する装置。[明電舎]
以上です。
長々とお付き合いありがとうございました。
今朝のビデオを参考に
ノートをまとめておきましょう。
どうもありがとうございました。
初回で気付けないことが多いのが今の課題ですね。