今回勉強したのは抗体の「クラススイッチ」
Wikiの定義を確認すると、
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免疫反応で生産される免疫グロブリンの定常領域(Fc領域)が、
抗原などの刺激により可変部を変えずにIgMからIgGやIgEなどへと変換すること。
wikipediaより
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簡単に説明すると、
抗体を産生するのはB細胞なわけですが、
B細胞が最初に産生するのはIgMというクラスの抗体です。
同じ抗体が5つ結合した五量体です。
クラススイッチ前のB細胞のDNAは下図の一番上のような配列になっています。
見えにくいですが、VDJの後にμ(青)が来ています。
このμ鎖はIgMのH鎖を構成します。
なので、上図の一番上の配列のまま工程が進めば、IgMが産生されます。
上図の一番下の図では、VDJの後にγ鎖(緑)が来ていますね。
これは、高校生物でも出てくる翻訳工程やスプライシング工程を経て、
μ鎖とδ鎖が排除されてしまったためです。
γ鎖は、IgGの元になるので、この配列はIgGを構成することになります。
このように、翻訳やスプライシング工程を経ることにより、
抗体のクラスを変えることができます。これが、クラススイッチです。
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◎クラススイッチの工程をもう少し細かく
もう少し詳細にはどのような工程になっているのか
①~⑧に表してみました。
①目標とする抗体のクラスの一部になるC領域とその近傍のスイッチ領域の転写
②AIDと言う酵素がスイッチ領域(S)のシトシンを脱アミノ化し、ウラシルに変換
③ウラシルがウラシルDNAグリコシラーゼによって除去され、
ウラシル部分の塩基を欠いたヌクレオチドが残される
④APE1(核酸切断酵素)がこの無塩基ヌクレオチドを除去
~イメージ図~
⑤DNA鎖に切れ目(ニック)が生じる
⑥切れ目と切れ目の間の配列が円のようになり切り出される
⑦V領域の近傍に目標とする抗体のクラスの一部になるC領域が寄ってくる。
⑧これをmRNAとして新たな種類の抗体を産生することができる。
と言う感じです。
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◎何故クラスを変えるのか
そもそも何故IgMだけではなくIgEやIgAなどに変える必要があるのでしょうか?
IgMは五量体として機能しているのですが、
5つも抗体が集まっているので結合力が強いんですね。
初めは、とりあえず細菌などの抗原に結合することが大事なので、
“三人寄れば文殊の知恵”精神で行くわけです。
ですが、IgMが産生された後も抗体の結合部は、
「V(D)J遺伝子組換え」や、「体細胞高頻度変異」と言うプロセスにより、
抗原結合部位の抗体への親和性をさらに高めています(親和性成熟)。
抗原との結合力が強まるよう進化をしているわけですね。
このプロセスが進むと、
(結合力だけが取り柄のような)IgMである必要はなくなっており、
もっと抗原と戦ってくれる抗体の方が求められるようになるため、
クラススイッチが起こるというわけです。
特にIgGは、オプソニン化や中和作用に優れるため、
血中で一番多い抗体になっています。
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◎特許におけるクラススイッチ
最後に、明細書内に登場したクラススイッチに関する文章を見てみます。
As already mentioned for chimeric and humanized antibodies
according to the invention
the term “human antibody” as used herein also comprises such antibodies
which are modified in the constant region
to generate the properties according to the invention,
especially in regard to C1q binding and/or FcR binding,
e.g. by “class switching” i.e. change or mutation of Fc parts
(e.g. from IgG1 to IgG4 and/or IgG1/IgG4 mutation).[US20100166740A1]
「用語の定義」の箇所ですが、
文章が長い且つ分かりにくくて面白いなと思ったので取り上げてみました。
簡単に説明していきます。
まず、最初の3行の文章は、説明するまでもないですが、
「本明細書中の「ヒト抗体」と言う用語に含まれるものとは、●●だ」、
と言うことですね。
そして、どんな抗体なのか、と言うと、
①4~5行目
modified in the constant region
定常領域において改変される
to generate the properties according to the invention,
本発明の性質を持たせるために
と言うことで、ヒト抗体の第一の定義としては、
「本発明の性質を持つように定常領域が改変された抗体」(仮訳)
ということのようです。
定常領域の改変と言うことは、クラススイッチですね。
ちなみに本発明の性質と言うのは、
Abstractを読む限り、「C1qに結合しないFc部位を持つ抗体」
を指していると考えられます。
②6行目
especially in regard to C1q binding and/or FcR binding,
特に、C1q結合及び/又はFcR結合に関して
C1qは補体の種類、FcRは免疫グロブリン受容体のことで、
どちらも抗体が結合すると、反応を進ませる能力があります。
ここでは、どちらも抗体が結合する対象である、
と言うことを分かっていることが大事かなと思います。
ヒト抗体の定義としては、①と合わせて考えると、
「C1q及び/又はFcRに結合しやすいように定常領域を改変した抗体」、もしくは、
逆に「これらに結合しないように定常領域を改変した抗体」、
と言うことのようです。
Abstractの記述から、今回は後者を指していると思います。
英語に沿った形にすると、
「特に、C1q結合及び/又はFcR結合に関して、
本発明の性質を持つように定常領域が改変された抗体」と言うことだと思います。
③最後の2行
e.g. by “class switching” i.e. change or mutation of Fc parts
(e.g. from IgG1 to IgG4 and/or IgG1/IgG4 mutation).
例えばクラススイッチング、すなわち、Fc部位の変化又は突然変異(IgG1からIgG4への変化および/又はIgG1/IgG4突然変異)によって、
と言う感じでしょうか。
クラススイッチングは、上述したように抗体のクラスが変わることです。
この特許の定義においては、
抗原と反応したことによる通常の変化と、
突然変異による変化もクラススイッチングに含まれる、ということのようですね。
IgG1はC1qなどの補体に結合して補体活性化をするのですが、
IgG4は補体活性能が低いので、本発明の一例としては、
IgG1からIgG4にスイッチングさせた抗体を使うのだと思います。
以上を踏まえると、
英語の順番通りに訳すと論理が破綻してしまいそうです。
言わんとしていることは、
本明細書のヒト抗体の定義は、
特に、C1q結合及び/又はFcR結合に関して、
本発明の性質を持つように定常領域が改変された抗体を含みますよ~
例えば「クラススイッチ」、即ちFc部分の変化または突然変異
(IgG1からIgG4への変化および/またはIgG1/IgG4突然変異)
により改変された抗体ですよ~
と言うことですね。
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【参考】
役に立つ薬の情報~専門薬学
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