エクソームシーケンスについてまとめてみた

●エクソームシーケンスってなに

とある特許の実施例を読んでいた際に遭遇した技術。

『全ゲノムシーケンス』なら知ってるけど、
『エクソームシーケンス』って何なんでしょう。

と言うことで調べてみました!

【特徴】
・ヒトゲノムのタンパク質コーティング領域「エクソン領域」を
網羅的にシーケンス、変異解析を行うもの

【メリット】
・全ゲノム配列解析よりもはるかに低コスト

ここまでで、なるほど、とも思ったのですが、
もう少し調べてみました。

●なぜ対象がエクソン領域なのか

エクソン領域を対象としたシーケンスのことを
エクソームシーケンスと呼ぶことが分かりました。

全ゲノムではなく、その一部を解析するのだから
低コストなのは想像がつきます。

では、なぜエクソン領域なのでしょう?

次世代シーケンサー技術などで有名なIllumina社のHPによると、

「既知の疾患関連変異の約85%がエクソン領域に含まれている」ようです。
https://jp.illumina.com/techniques/sequencing/dna-sequencing/targeted-resequencing/exome-sequencing.html

遺伝性疾患の多くがエクソン領域の変異により引き起こされると
推定されているため、遺伝病等の疾患遺伝子の探索の効率化には
エクソームシーケンスが有効であるようです。
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/2348.html

具体的に言うと、
腫瘍サンプル(がん組織)と正常サンプル(正常組織など)を用意して、
エクソームシーケンスによって両サンプルの全エクソームデータを比較します。

そうすると、いくつかの遺伝子配列に差が現れるので、
腫瘍サンプルの方に起きている遺伝子配列の異常が、
がん細胞の原因となる遺伝子変異である可能性がある、
と同定することができる、と言うわけです。

実際には言葉で言うほど簡単ではないのだと思いますが…。

ちなみに分かりやすく説明された動画はこちらです。

次に、特許翻訳する際に大事な実験のフローについてまとめました。
今回は解析までの準備段階のフローについてです。

完全にイコールではありませんが、
関連する英語表現も一緒に記載しておきます。
英語の表現は、外国企業のHPや論文などを参考にまとめています。

●実験のフロー

①解析したいサンプルをプールする
*DNA samples were pooled
*pooled DNA samples were analysed


これらのサンプルライブラリーを変性して1本鎖DNAにする
*DNA can be denatured through heat
*breaking double-stranded DNA into single strands

③ターゲット領域に特異的なビオチン標識したプローブとハイブリダイズ
*biotin-labeled oligonucleotide can be employed as hybridization probe
*Hybridization Using Biotin-labelled DNA Probes

④サンプルはビオチン化プローブに結合するストレプトアビジンビーズにより濃縮
*Streptavidin-coated Dynabeads are then added to the mixture
and the hybridized sequences are immobilized onto the Dynabeads
via the streptavidin-biotin bond.[ThermoFisher] *The high affinity bonding that occurs between streptavidin and biotin
make the use of streptavidin-coated magnetic beads ideal
for the capture of the hybridized DNA/biotin labeled probe complex.[BioTechniques

英語の例文では、「濃縮」ではなく、
immobilizedとかcaptureなどちょっと違う表現で
その様子が説明されています。
以下のイラストを見れば、何故そのような表現を
使っているのかイメージが少しは湧きますでしょうか?

※ストレプトアビジンビーズとは
ストレプトアビジンが結合した超常磁性粒子のこと。
ストレプトアビジンビーズに結合したビオチン化DNA断片は、
磁気により集めることができます。

⑤ビーズを洗い流しプローブを除去
*Wash streptavidin beads to remove unbound probe.

⑥残ったエクソンを増幅し、シークエンシングする
*exons are amplified
*Sequencing of the amplified exon

以上が、実験のフローでした。

●そもそもエクソンって何

と言う方のために、こちらについても簡単に説明しておきます!

まず高校生物の基礎的な話になりますが、
DNAからタンパク質を作るためには「転写」と「翻訳」
と言う過程を挟みます。

①DNAの情報を写し取る(転写)
②写し取った情報を読み取る(翻訳)
③情報を元に材料を並べてタンパク質を合成
(下の図参照)

私たちの身体は、筋肉も臓器も皮膚もすべてタンパク質からできているので、
DNAの情報からタンパク質を作るという過程は私たちが生きていくための
基本的な根本的な活動です。

では、その過程をエクソンと絡めて説明します。

転写時には、
DNAの情報がそのまますべてコピーされてmRNA前駆体ができるのですが、
このmRNA前駆体にはDNAの情報が書かれているエクソン部分
DNAの情報とは無関係のいらないイントロン部分とが存在します。

と言うのも
「RNAポリメラーゼ」と言う転写を触媒する酵素がいるのですが、
この酵素が多忙なため大慌てでDNAの情報を転写するので、
時々意味不明な言葉を混ざてDNAの情報を写してしまうんです。
(例えです)

なので、タンパク質を合成するためには、
意味不明なイントロン部分は除去して、大事なエクソン部分だけを並べて、
読み直さないと、DNA情報に基づいたタンパク質が作成されません。
(このイントロン部分を除去する工程をスプライシングと言います)

つまり!
エクソン部分には遺伝子の重要な情報が詰まっているのです。

実は人間の身体の中は無駄なイントロンだらけで、
ゲノムに占めるエクソンの割合はたったの2%未満だそうですよ。

だからこそ全ゲノムシーケンスでなくて、
エクソンを対象としたシーケンスが出来たら効率的で良いよね、
と考えるのも納得がいきます。

エクソームシーケンスの利点が少し分かってもらえたでしょうか。

ちなみに、生化学の分野は日々新たな発見が出てくるので、
イントロンが無駄なものである、と言うのも
いつかは間違いになるかもしれませんね。

●さらに理解を深めるために!

ここまで理解できれば、以下英語で書かれた
エクソームシーケンスに関する論文の一節になりますが、
フンフンと読めるようになりますね!?
――――――――――――――――――――――――――――
What Is Exome Sequencing?
<前略>
There are two main categories of exome capture technology: solution-based and array-based.
In solution-based, whole-exome sequencing (WES),
DNA samples are fragmented and
biotinylated oligonucleotide probes (baits) are used to selectively hybridize to target regions in the genome.
Magnetic streptavidin beads are used to bind to the biotinylated probes,
the nontargeted portion of the genome is washed away, and
the polymerase chain reaction (PCR) is used to amplify the sample, enriching the sample for DNA from the target region.
The sample is then sequenced before proceeding to bioinformatic analysis.
――――――――――――――――――――――――――――
Exome Sequencing: Current and Future Perspectives
この論文では、エクソームシーケンスが広まったきっかけとなった
成功例についても記載があるので、興味があれば、
上のリンクにアクセスして読んでみてください。

***
最後に久しぶりにノートをちらり

【参考】
http://catalog.takara-bio.co.jp/jutaku/basic_info.php?unitid=U100006552
https://www.cancerprecision.co.jp/page_b_1.html
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150803_1/
https://jp.illumina.com/techniques/sequencing/dna-sequencing/targeted-resequencing/exome-sequencing.html
https://jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/apac/japan/documents/pdf/datasheet_truseq_exome_enrichment_kit-j.pdf
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1108_02.pdf
https://www.chem-agilent.com/pdf/low_5991-8571JAJP.pdf

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